第4章 サポートの最前線 ・ 在宅勤務の失敗事例から学ぶ ─社会福祉法人東京コロニー 堀込真理子  ※ご紹介する2事例は、過去の経験をもとに創作したものです。 事例1 テーマ:在宅勤務者の業務範囲と、作業量の確保 ○事業主:A社 (食品加工会社) ○被雇用者:Nさん 30代女性  内部障害 1種1級  在宅就業支援団体から学んだHTMLの技術で就職。病気発症前はアパレルで総務職をしていた。 ○就  職:2003年8月ハローワークの紹介により入社。2004年12月退社。 人事グループに所属し、社内のイントラネットの更新作業に従事。完全在宅勤務。 状 況  明るく積極的なNさんにとって、社内情報を日々書き込むイントラネット更新作業は大変楽しいものでした。しかし、作業の速いNさんは午前中でほぼその日の作業が終わってしまい、次第に残りの時間を持て余すようになりました。上司には「入力でも何でもできることをしたい」と伝えましたが、「空いた時間は自由に勉強して下さい」との答えでした。  入社1年後のキャリアアップ面談の際に、作業の種類や仕事量を増やしてほしい旨を話すと、「他社の例などを参照して、自分で在宅でできる作業を発案してください」という返事があり、Nさんは張り切って色々在宅でできる作業を提案しました。しかし、当時、会社では担当業務を変更することが難しく、Nさんのモチベーションは段々と下がり、1年半で退職しました。 事業主側  Nさんを受け入れる際、在宅勤務における業務は情報処理システムの設計やデザイン等の業務の遂行の方法を作業者の裁量に委ねる必要性の高いものと聞いていました。データ入力などの単純業務は該当しないと認識していたので、社内ネットのHTML更新を在宅作業と決めました。会社本体のホームページは外注しているため在宅でできる部分はなく、作業量を増やすことは困難でした。また、教育を受けさせるのも在宅勤務では難しい上、Nさんの作業コーディネート担当は課長一人であったため、別な職種を検討する余裕もありませんでした。 本人側  仕事内容には満足していましたし、自分の能力も会社の要求に達していました。長く続けたい思いはありました。  しかし、作業を一生懸命すればするほど早く仕事が終了してしまい、「空いた時間は勉強して」と言われても今後のビジョンも見えないため何を勉強していいかわからず、段々モチベーションが下がりました。ネットなどで他社の在宅勤務事例を探しそれをメールして業務提案したこともありましたが、担当業務が変更されることはありませんでした。  在宅で社内の雰囲気・実情が見えづらいこともありましたし、課長以外の同僚は名前を知っているくらいで相談もできなかったことから、結局辞めることを決めました。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 問題点はどこにあったか またその回避策 在宅勤務の業務範囲  A社がNさんの業務内容を考えあぐねた理由の一つには、雇用保険の被保険者となるためには、在宅勤務における業務は作業者の裁量に委ねる必要性の高いものでなければならないという過去の情報が挙げられます。以前は雇用保険の被保険者となる常用労働者に該当する業務の範囲は、裁量性の高いもの<新商品または新技術の研究開発等、情報処理システムの分析または設計等、記事の取材または編集、デザイナー等> という要件がありましたが、Nさんのような重度障害者については、この要件の適用対象外とされており、データ入力等の単純作業も雇用保険の被保険者となることができるようにされていました。  なお、平成19年10月よりこの要件はなくなり、障害の有無を問わず、雇用保険の被保険者になるための在宅勤務の業務の範囲は限定されていません。  したがって、現在、在宅勤務者の業務は、社内で発生するデータ入力等の単純作業をはじめとして、あらゆる作業が範囲となるのです。 在宅勤務者と向かい合い、 職域を考慮する  A社が職域や作業量を増やせなかったのは、前項の誤った業務範囲情報のせいだけではありません。  「在宅勤務はこの作業」という決め付けがあり、Nさんという個人に向かい合っていませんでした。確かに会社において勤務する場合と比較すると対処可能な仕事の質は制限がありますが、「在宅ではできない」と思い込まないことが大事です。一連の作業のうち社内でないと不可能なものは何か、どうすれば在宅勤務の作業として切り出せるか、熟慮して新たな職域を考えることは、予想もしなかった効率のアップやコミュニケーションを生むことにつながります。  例えばNさんは人事部であり総務経験もあることから、リクルート業務で発生する学生とのメール処理なども作業候補になるでしょう。そういった付帯的な業務をメイン業務の他に平行して複数指示し優先順位を明確にしておけば、作業量も平準化し、ある程度本人の裁量も発生することから、モチベーションを下げずに遂行することができます。同時に、それらの作業が例えどんなに小規模で単純なものであっても、必ず会社としての大きな価値につながる後方支援であることを誠実に在宅勤務者に伝えることも大事です。 在宅勤務でも教育・キャリアアップは しっかりと  入社時の研修は一定期間出社で行なったり、研修担当者が自宅に出向いて行う例が多くあります。しかし、その後はA社のように「在宅勤務者への教育は困難」と判断し、全く教育を行っていない会社も少なくありません。在宅勤務者も同じ「社員である」ということを今一度確認し、業務に必要な教育は受けさせることが必須です。  昨今は法人向けあるいは個人向けの多様なeーラーニング事業が巷にあるため、そういったものを選択し利用できます(企業が行っているものの他にも、公的なサービスや福祉団体の行っている教育もあるので、在宅就業支援団体等に問い合わせるとよいでしょう)。  また、時には短時間でも出社させ、社内教育を同僚と共に受けさせることも、モラルの向上や帰属意識につながり効果的です。 在宅勤務者を取り巻く環境は オープンに  A社においてNさんと関わっていたのは、コーディネーターの課長だけでした。そのため、忙しい時は双方でコミュニケーションを十分にとることができないことがありました。こうしたことは在宅勤務ではよく起こることですが、在宅勤務者と社内の人間の風通しをよくすることで解決できます。コーディネーターはメイン担当者を1名決めるとしても、在宅勤務者の連絡報告は、メーリングリストなどで同じ部署の複数人が受け取るようにし、コーディネーターが多忙な時は他の職員も対応出来るようにするのが望ましいでしょう。1ヶ月に1度くらいのペースで出社を義務付け、その折に同部署の者と昼食やコミュニケーションを普段からしておくと、問題が起こった際に悩みやグチを同僚に打ち明けることが可能となります。  正社員でないため組合や社員会に加入できない場合、どうしても立場が弱くなりがちな在宅勤務者ですから、できるだけ声を上げられるしくみを考慮し、仲間であることをお互いが体感できるように心がけるとよいでしょう。 事例2 テーマ:進行性の障害や二次障害の不安について ○事業主:B社 (PC周辺機器メーカー) ○被雇用者:Wさん 30代男性  脳性麻痺 1種1級  以前事務をやっていた福祉作業所でワープロや表計算の知識を身につけた。 ○就  職:2001年4月、民間職業紹介事業者の仲介で入社。2004年8月退社。 顧客管理の部署に所属し、データ入力作業に従事。完全在宅勤務。 状 況  Wさんは、養護学校を出た後何度もハローワーク経由で一般就労にチャレンジしましたが、車椅子での通勤が難しく食事やトイレが自力でできないこと等が理由となり、長らく福祉作業所の利用者でした。したがって、念願の事業所に在宅勤務で雇用された折には、本人も家族も希望に満ちていました。しかし、のんびりやっていた福祉作業所と違い、体の緊張が強いWさんには1日7.5時間のデータ入力作業は予想以上にきつく、そのうち首の痛みと目の疲れを伴うようになりました。2年経過した頃、顔が上げにくくなりクビの手術を2度ほど受けましたが、入退院の日々が続いたのち半年休職し、結局退社となりました。 事業主側  当初WさんにはHTMLや社内の簡単なプログラミング言語を覚えてもらい、比較的付加価値の高い作業をしてもらおうと思っていました。ところが、勉強をしてもなかなか実践力が身につかなかったため、単純なデータ入力作業しか与えられる仕事がありませんでした。首を痛め入院になった時は、突然のことだったので驚きました。退院後は勤務時間を短くし、なるべく無理をしないよう指導していましたが、限界に来たか、本人が辞めたいということで了承しました。  現在、新たに出している在宅勤務の求人に筋肉難病の方が応募して来ていますが、病気の進行する可能性がゼロではないと聞き、Wさんの時の苦い経験もあり悩んでいます。 本人側  福祉作業所にいる時は一般就労ができるとは思ってもいなかったので、入社の際は、自宅で働く形で社員になれることにとても感謝しました。少しでも技術を得ようと入社後はHTMLなど色々勉強しましたが、適性がないのか身につきませんでした。そこで、与えられたデータ入力の仕事を必死でやりました。貸与されたノートPCはキーが小さく打ちにくかったのですが、こんな恵まれた環境で受け入れてもらえる会社はもうないかもしれないと思い、多少体が痛かったけどリハビリの時間もカットして続けました。首が動かせなくなって入院した病院で、作業療法士から「Wさんはパソコン利用時は腕と机の隙間にタオルを数枚置いてみて」と言われ、試したらとても楽になりました。  しかし、その後手術は一度では終わらず何度か入院し、手術後も期待していたような体調にならなかったので退職することにしました。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 問題点はどこにあったか またその回避策  在宅勤務者の作業環境を整備  このケースのように、二次障害※1によって退職せざるを得なかった雇用事例は少なくありません。二次障害は加齢も影響しますが、作業姿勢や残存機能の酷使によって、痛みや機能低下、障害悪化などを引き起こす場合があります。Wさんの場合、B社に残りたい一心から「この仕事しかない」と、緊張の強い体で同じ姿勢をとり続けたことが残念な結果となってしまいました。  B社は入院を「突然」と感じたようでしたが、在宅勤務の場合、そもそも入社時には自宅訪問を実施し、最初から作業環境のチェックや見直しをするべきでした。特にVDT作業※2については、入出力デバイス・周辺機器等がストレスなく利用できる状態かどうかだけでなく、座位の取り方なども大きなポイントとなります。そこで、Wさんも話しているように、できるだけ当人をよく知っている地域の作業療法士や理学療法士など専門家に在宅勤務者本人が相談するのがよいでしょう。  また、キーガードや特殊マウスなど体の負担を軽くする情報支援機器の類は、在宅就業支援団体や地域の障害者ITサポートセンター等に聞くのが効果的です。在宅勤務の場合、会社からの貸与はノートPCが多いですが、キー入力が多い作業では、キーストロークの深さや画面の角度・位置などに十分留意する必要があります。  在宅での情報支援機器(ソフト含め)や必要な什器の購入には助成金の活用も考えられます。また、(独)高齢・障害者雇用支援機構では、事業主に対して一定期間無償で支援機器を貸出すサービスを行っているので活用するのも1つです。 ※1 もともとあった障害とは別に、時間の経過とともに後天的に生じる障害を二次障害といい、中途障害者や高齢者にも発生します。 ※2 ディスプレイ、キーボード等により構成されるVDT機器を使用して、データの入力、文章・画像等の作成、プログラミング等を行う作業をいいます。 作業時間の管理  Wさんの体が加速度的に悪くなったのは、前項の作業環境の悪さに加えて、作業時間が管理できていないこととリハビリを怠ったことが原因でしょう。作業の経過が見えず成果物勝負の在宅勤務では、休憩を取らず仕事に没頭することはありがちで、特に量で成果を測られる入力作業などにおいてはことさらです。一般に、事業主は労務管理の義務があるので、在宅勤務者の作業開始や終了の時刻は把握していますが、間の休憩等は本人任せであることがほとんどです。したがって、オフィスでVDT作業中の休憩を励行するのと同様に、在宅勤務の場合もチェックシートなどを利用して自ら意識して時間管理を行わせる必要があります。また、日報の中で休憩の取得状況やその日の体調などを簡単に書かせるのも効果があります。  仕事のためにWさんが途中で辞めたリハビリは、長く仕事人でいるための一番大事なポイントですから、最初に労働時間を組み立てる時にこの時間を考慮するべきでした。在宅勤務でないと働くことが難しい人の中には、リハビリ以外にも排便や入浴の時間を日中割かなくてはならないことがありますので、その場合には入社前にそうした一週間のタイムテーブルを作成し、事業主と労働日・労働時間を協議した上で、契約にきちんと盛り込んでおくことが望ましいでしょう。 在宅勤務者が進行性の病気である場合  B社が現在難病の求職者の雇用に踏み切れないでいるのは、病気の進行の可能性を考えると理解できるところです。しかし、どのように病気が進んでいくかは誰にも予想のつかないことであり、その点では障害のない社員も同様です。そこで、進行性の病気のある求職者を雇用するにあたっては、現段階でその病気以外に問題がないのであれば、双方の不安をできるだけ取り除く準備や決め事を事前にしておくことが考えられます。例えば、契約更新を3ヶ月、6ヶ月のように短いタイミングで行い、その都度双方で状況を協議し、必要であれば労働条件を変更できるようにするのも一手です。協議の折には、本人の了解を得て担当医師の意見を拝聴できるよう事前に契約書に盛り込む方法もあります。また、事業主が「勤務継続不可能」と判断する勤務状況の条件を事前に協議し、文書化しておくのもお互いが納得できる方法でしょう。求職者が一人暮らしの場合には、緊急の時に備えて、居住地の近隣の在宅就業支援団体や福祉団体、あるいは就労支援センター等に協力を仰いでおくのも安心です。   いずれにせよ、こうしたケースは業務とは別にきめ細かい配慮も必要であるため、事業主は十分な準備と理解ができてから採用にチャレンジすることが望まれます。現在、進行性の障害がある人の多くが在宅で(病院で、施設で)働くことを希望しています。本人はもちろん、事業主、支援団体がトライアングルとなってその気持ちを支えていくことが次の一歩といえましょう。 在宅勤務におけるコーディネートを担う人材の重要性  前述の事例で、労使が円滑に在宅勤務を継続させていくためのポイントを見てきました。そこで明確になったことは、事業所と離れた場所で勤務することに伴う、様々な連絡・調整の役割の重要性です。  そうした在宅勤務者と事業所のコーディネートの役割を果たす仲介役の配置が、在宅勤務の成功の鍵といっても過言ではありません。改めてここでその主な役割をまとめてみましょう。 在宅勤務者と事業所の間でコーディネーターが果たす主な役割 ○ 在宅勤務者の雇用管理(勤怠管理、勤務時間管理、健康管理等) ○ 在宅勤務者の業務管理(業務進捗管理、業務連絡、社内関係部門との連絡調整、クライアントとの連絡調整等) ○ 在宅勤務者の雇用管理・業務管理制度の設計及び就業規則等の整備  これらを全てコーディネーター一人が受け持つとは限りません。「労務関連はメインコーディネーターの所属長、業務の中身についてのやりとりは別の作業担当者」というように、管理責任が分散しているケースもあります。しかし、いかなる場合も、在宅勤務者の情報は関係者で一元的に共有し、単独の担当職員のみの把握にしないことが大切です。  また、労働者にとって最も重要である「仕事をする喜び、誇り、モチベーション」の保持については、常にコーディネーターが中心になって心に留め、配慮したいものです。例えば、在宅勤務者が担った作業パートが、どのような過程を経て、どのようなユーザーに届いたのか。そうした経緯を知らせることができれば、業務の全貌を確認することの難しい在宅勤務者にとって非常に嬉しい情報であり、仕事人としての意識や責任感の醸成につながることでしょう。仲介役の腕の見せ所です。  上記のような人材の配置や委嘱については、障害者雇用納付金制度に基づく「在宅勤務コーディネーターの配置又は委嘱助成金」を活用する方法もあります。ノウハウがない場合、外部の会社にコーディネーターの役割を委託しているケースもありますが、忘れてならないのは、あくまでも自社で受け入れた雇用であり、共に働く仲間であるということ。会社において勤務する場合であっても、在宅勤務であっても、社員の雇用を管理し働き甲斐を守っていくことは事業所の責務です。 ・ 在宅勤務・在宅就業に結びつけるための訓練の実際 特定非営利活動法人 バーチャルメディア工房ぎふ 上村 数洋 服部 和弘  特定非営利活動法人バーチャルメディア工房ぎふ(以下「当工房」といいます)においては、在宅勤務・在宅就業に結びつけるための様々な訓練を実施しています。当工房の10年間の取組を通じて得られた訓練の実施について、「在宅就業障害者(以下「登録ワーカー」といいます)の募集方法」、「訓練を実施していく上での工夫」、「職業意識向上をサポートするための取組」の3点をご紹介します。 1.登録ワーカーの募集方法 1 現在の応募資格と選考試験  当工房では、平成10年より、一般の職場では就業の機会が得難い重度の障害者の中で、ITを活用し在宅での就業を希望する人を対象に、行政や民間企業などのクライアントとの間で、企画・営業・受注・作成・納品といった業務の指導・調整を行い、一人でも多くの就業能力を有する障害者の育成と自立・社会参加活動の支援を行っています。  現在、年二回公募により参加希望者を募り、一定の選考の元に登録ワーカーとして受け入れを行っています。応募資格と選考試験の内容は以下の通りです。 (応募者の資格) 次に揚げるすべての要件を満たす方 ・岐阜県内(但し、一部、在宅就業の取組や支援機関・団体のない近県からの参加申込みも含む)に住所を有し、18歳以上の身体障害者手帳(等級が概ね1〜2級、外出が困難で一般就労ならびに職業リハビリを受ける機会が得られない方)、精神障害者保健福祉手帳(症状が安定し、就労が可能な状態にある方)を有する方と、当法人が実施している在宅就業に関する業務を自ら行うことができる知的障害の方。 ・地域社会において積極的に家庭復帰及び社会参加、自立を目指し努力している重度の障害者で、就労に意欲と能力(学力・社会性・自己管理力・体調管理及び健康管理力・対人交流関係・コミュニケーション手段の確保・職業意識及びマナー等)を有し、常に向上心を有する方 ・自宅にパソコンがあり、インターネット接続環境が整っている方で、1日に1回はメールチェックができ添付ファイルの送受信ができる方 ・在宅で週4日以上、1日概ね4〜6時間程度パソコンを使った仕事のできる方 ・今回の取組みを円滑に行うために開く、 打ち合わせ/ミーティング ・・・・・月一回程度 講習会(含む、人材育成研修)・・・・月二回程度/期間内等に参加のために当工房まで出てこられる方 (選考試験について) 応募申込者に対して、下記の選考を行う ・一次選考(全応募者) 本要項に基づき、応募者より提出された書類により 選考を行う ・履歴書、身上書(市販の書式に準ずる形で作成されたもの) ・受験用質問用紙(様式−1) ・パソコン環境調査用紙(様式−2) ・スキル確認用紙(様式−3) ・簡単な自己紹介(書式、形態とも自由)※ 障害名、障害認定等級等を明記 ・二次試験(書類選考合格者) ・適性試験(株式会社リクルートマネジメントソリューションズ NSPI測定使用) ・パソコンを使って作成された成果物(提出メディア自由) ・三次試験(二次試験合格者) ・面接 ※併せて、成果物に対してのプレゼンテーションも行う ・作文 ※ 当日、出された課題について、当工房のパソコンを使用して作成し提出 (一時間以内) ※ 特殊入力装置等の使用者は、事前連絡により動作確認の上持込使用可能 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 2 応募資格と選考試験の改善の経緯  登録ワーカーの募集に関して、当初はもう少しシンプルで、選考試験も今と違い、面接を二次試験に組み込む形で実施していましたが、取組を初めて10年、その間に色々な失敗や思いもよらない手違いから以下のとおり改善を繰り返し、現在に至っています。 改善1 失敗  在宅就業=インターネット環境が整っている、と考えて疑いませんでしたが、登録ワーカーの手続きを済ませ、いざ仕事を依頼すると、パソコンは設置され使用されているものの、・インターネットが整備されていない、・インターネットを一度も覗いたことがない、と言う登録ワーカーが現れました。そこで、事前にインターネット環境が整備されているか確認するために、以下の対応をしました。 対応 a) 応募の問合わせに対し、募集要項は全てホームページ  から閲覧してもらいました。 b) 応募に必要な書式等は、全てホームページからダウンロー ドしてもらい、提出はE−mailに添付としました。 c) パソコン環境調査のための用紙を追加しました。 改善2 失敗 提出された作文を読み、書かれている内容に感動を覚え、そのことが登録の大きなポイントになったこともありました。ところが、仕事の打ち合わせの時に、短時間で回答をまとめることができない登録ワーカーを多々目にするようになり、以下の対応をしました。 対応 時間をかけて書いた文章から、短時間でまとめる力の必要性を重視し、スキル確認のための質問用紙を追加すると同時に、作文に関しては、試験当日に出す課題について、一時間内に当工房のパソコン等を使用して作成し提出してもらうように変更しました。 改善3 失敗 自作の成果物をメディアで提出してもらい、スキルの確認をする中で他人の手による作品を提出してきた人がいました。自作の成果物であることを確認するために、以下の対応をしました。 対応 面接時に、パソコンの画面を通して作品制作に関するプレゼンテーションを行ってもらうようにしました。 2.訓練を実施していく上での工夫 1 当工房で実施している訓練 委託元 訓練名称 訓練内容 訓練形態 国 障害者知識・技能習得 委託訓練事業 ITリテラシー Webクリエーター養成 データベース 通所 ITリテラシー Webクリエーター養成 遠隔教育 県 人材育成研修事業 ワード、エクセル Webクリエーター養成 (Webアクセシビリティ) パソコン検定受験対応 システムアドミニストレータ 通所 市 障害者社会参加促進事業 パソコンアシスト 訪問 視覚/聴覚障害者研修 通所 自前 登録ワーカー技術研修 在宅就業に必要な知識を登録ワーカーの希望に応じて実施 通所又は遠隔教育 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 2 訓練を実施するための運営上の工夫  1)で記述している全ての訓練において、以下のポイントに留意して運営しています。 ・ 講師及びアシスタントは障害者の登録ワーカー  訓練の企画からカリキュラム、テキスト作成まで関わることにより、在宅就業を遂行する上でも役に立つ実践的知識を学ぶことができます。また、障害当事者としてきめ細かな対応と指導が可能となります(例えば、重度障害者への入力装置等の支援、 精神障害者、知的障害者への気配りと配慮による精神面のフォロー)。 ・ 研修専用サーバーの立ち上げ  専用サーバーを立ち上げ、講師間におけるきめ細かな打ち合わせ・申し送りの実施に活用しました。また、日報の書き込みをし、それをチェックすることで受講者の進捗と能力、理解度の把握が可能となりました。サーバーを利用することにより、講師にとっても実践的な経験を持つことにつながりました。 ・ 講師とスタッフが受講者と昼食を一緒にとることにより   心の交流を図る  登録ワーカーを受け入れる際に、人柄を把握することが可能となりました。精神障害者については、精神的な支えになっていると思われます。 ・ 訓練修了者と求人企業との間で橋渡し支援  在宅勤務、在宅就業につながるよう受講者全てのデータの把握と就労への支援を心がけています。 3.職業意識向上をサポートするための取組 1 事例紹介  10年間に24名を登録ワーカーとして受け入れる中で、5名が企業へ就職、2名が独立、他2名が残念ながらリタイアし、現在15名とスタッフ4名で活動を展開しています。  当工房の活動において、私たちが一番頭を痛め、力を入れ取り組んできたことは、在宅勤務や在宅就業をしてもらうための「技術的サポート」より、一社会人として仕事をしていこうとする人達の、職業意識やマナー、精神的な面も含む「人育て」だと言っても過言ではありません。そこで、職業意識の重要性を示す2つの事例をご紹介します。 事例1 自己啓発力の素晴らしさ! 登録ワーカー :Aさん 30代男性 頸椎損傷 1種1級  Aさんとの出会いは、K市より委託を受けた「重度障害者のパソコン教室」でした。この訓練が、Aさんにとってはパソコンと最初の出会いであり、カリキュラムとしては、ワード、エクセルでしたが、とても前向きで習得が早かったのです。  翌年、登録ワーカー募集の案内を出したところ、即座にAさんから申し込みがあり、適性試験の結果もよく、人柄が他の登録ワーカーにとっても好影響を与えるとの判断から登録を決めました。  その後、約1年間、遠隔教育を始め、他の機関での訓練等も受講しました。この時点で、Aさんはホームページ作成の経験はゼロでしたが、比較的分量が少なく、納期に余裕のあるものを、経験のある登録ワーカーの指導のもと、在宅就業を行うことを持ちかけてみました。当然のことながら、不安と戸惑いの中、引き受けてくれました。  約2週間余り、連絡がなく気になり訪ねてみると、依頼した仕事は完璧とまではいかないまでも、ほぼ形になり仕上がりかけていました。聞けば、依頼後、ホームページ作成に必要な書籍を購入し、それを片手に試行錯誤を繰り返したということでした。これには、スタッフ一同、ただただ驚嘆すると同時に、登録ワーカーの選考に当たり、経験やスキルの高さも確かに必要ですが、それ以上に働くことに対する姿勢、意識の高さと、その人の将来性、可能性にまで目を向けくみ取る必要性のあることを学ばせてもらいました。  この後のAさんの仕事への姿勢と努力には目を見張るものがあり、7年経った今では、当初私たちが望んでいたように、登録ワーカーのとりまとめ役やリーダーとして、単に在宅就業に留まることなく、積極的・能動的に訓練等をはじめ様々な仕事をこなしてくれています。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 事例2 支援の力及ばず! 登録ワーカー :Wさん 20代男性   脳性麻痺 1種2級  特別支援学校(旧養護学校)の高等部を卒業後、愛知県の職業訓練校に進みました。訓練修了後、求職活動をしましたが思うように就職ができず、当工房の登録ワーカーに応募しました。職業訓練校で簿記やパソコン検定の試験にも合格しており、選考試験の成績も非常に高く、期待の元に登録をしました。  車の運転が可能なことに加え本人の希望から、約一年間、週2〜3日、当工房に通いながら国の委託訓練等に参加させると同時に、スタッフのサポートという形で、工房の作業を体験してもらいました。この頃、夕方4時頃になると、なぜかソワソワしはじめることから問いかけてみると、「6時から家族揃って晩ご飯を食べなくてはいけないから、それまでに帰らないと…」との返答でした。この時は、職業意識に懸念は持ったものの、若さゆえの社会性の不足くらいに捉えていました。  一年半を過ぎる頃、初めて会議のテープ起こしの仕事を依頼しました。工房で行う作業では、人への気遣いの姿も見られ、そつなくこなしているように感じていました。その後、アンケート調査のまとめやホームページ作成の仕事を任せてみると、俄然様相が変わり、一日中パソコンの前に座っているにも関わらず、全く仕事が進まないばかりか、納期直前に「できません」と言ってくることもありました。再三膝を交え「働くこととは・・・」から話し合い、つきっきりで、技術面のサポートについても細かな指導も行ってみましたが、状況は変わりませんでした。こうしたことの積み重ねの中、Wさんと我々スタッフの意識のズレは広がるばかりでしたが、ある日、Wさんの何気なく言った一言が、直接担当していたスタッフの怒りを生むこととなり、それをきっかけにWさんは登録ワーカーから外れていくことになりました。  その後、保護者も含め、数回話し合いの場を持つ中で判ったことは、Wさんは記憶力もよく、学校での成績も非常に良かった様ですが、家族の必要以上の保護の元、他人から指示があればいいが、自ら考え、一人で物事に取り組むことが苦手な面があり、職業意識に大いに課題を抱えていることが判かりました。  以上の2事例から、在宅就業とはいえ月一回程度のミーティングや顔を合わせての打ち合わせ、情報交換のできる場の設定は、時間の限り実施しています。このことは、今後も、業務を実施していく上で効率の良さや、登録ワーカー自身が独り善がりにならない為にも、絶対に必要だと確信し、継続を考えています。 2 職業意識向上をサポートするための運営上の工夫  職業意識向上をサポートするために、以下のポイントに留意して運営しています。 ・一つの仕事を、2人以上のグループ(リーダー制)で実施  体調等の不良によりクライアントに迷惑をかけないようにするためです。 ・ネット上に独自の「イントラネット」を立ち上げ進捗管理  スタッフと登録ワーカー全員が、いつでも全業務の進行内容を見ることができます。人の仕事に対しても意見やアイディア等の提案をすることにより、お互いのスキルを高められるばかりか、納期等のトラブルの解消にもつながっています。 ・アシスタント制の導入  約一年間の期限を目処に、運営・自立のための勉強も兼ね、スタッフのサポートをこなしてもらいます(週一日程度)。 ・HPの作成・更新と機関誌の発行を体験  新人登録ワーカーの業務の体験の一環として実施しています。 ・研修用のサーバーの立ち上げと管理  最新のIT技術の習得のため、独自の研修用の模擬サーバーを立ち上げ、SE技術面でも自主学習ができるようにしています。  ・SNS利用の研修と情報交換  登録ワーカー同士が集合して技術研修を開催することが難しくなっている中で、登録ワーカー間、全国の支援団体間のコミュニケーション・情報交換の場としてのSNSを立ち上げ、共通話題の中から研修テーマを選び、登録ワーカー自らの手で研修の場を開設しています。  職業意識向上や職業リハビリテーションの必要性を感じると同時に、私たちスタッフは、いい仕事をするには、いい意味での「要領」を身につける必要があると感じています。  昼食時や休憩時の一見雑談とも思える場を設定し、そこでのコミュニケーションを大切にしてます。あわせて、仕事を離れての交流の機会(誕生日のお祝い(プレゼント)、バーベキューや忘年会の開催)を極力持つように努めています。3年前より若手の登録ワーカー達によるギター演奏のチーム(The Only One's)が発足し、在宅での仕事のストレスの解消も兼ね、毎週火曜の夜に集まり練習をすると同時に、機会をみつけ演奏活動等を行っています。