非雇用18 Case study 働くことへの強い思いを 技術訓練と環境づくりでサポート Profile 支援団体 社会福祉法人ふらっと ●所在地:島根県松江市邑生町662-1  ●・0852(34)9734 FAX0852(34)9735 ●URL:http://http://www.ptp-net.com/index.html 【事業内容】  就労継続支援、就労移行支援、在宅就業支援、各種相談事業を行う障害者支援施設ピー・ター・パンを運営。名刺、年賀状や挨拶状、チラシ類の印刷、オリジナルTシャツやマグカップの製作、ホームページ制作などを行っている。平成18年5月に在宅就業支援団体として登録。近年は、情報発信と在宅就業の機会拡大等環境づくり・ネットワークづくりをかねて、「しまねTシャツフェスティバル」をはじめとする市民参加イベントの企画・実施にも力を入れている。 支援対象者 石倉 芳幸さん ●在住地:島根県 ●障害種別:身体障害(1級) ●障害状況:心臓機能障害、脊椎側湾症。長距離の移動に車椅子使用。呼吸器科に月に1回、心臓の定期健診を3ヶ月に1回受診している。 【これまでの経緯】  普通高校を卒業し、就職への強い意志を持っていたが平成13年ごろ心臓疾患にかかり、体力的な制約から就職が難しい状況にあった。島根障害者職業センターから情報提供を受け、社会福祉法人ふらっとの前身である共同作業所に通所し、印刷に関する制作業務を中心に訓練を受ける。技術の修得とともに働くことへの思いを新たにし、当該支援団体が在宅就業推進事業を開始したことから印刷物の制作に関わる在宅就業に取組んだ。 主な訓練内容 期間 平成14年5月〜19年3月 訓練内容 ・DTP関連ソフトウェアの技術習得(ページメーカー、イラストレーター、フォトショップ、インデザイン) ・印刷関連基礎知識の習得(デザインレイアウト、オフセット印刷、フォント、スキャン) ・写真加工、レタリング ・WEBサイト制作、動画制作の基礎 ・ビジネスマナー(自己紹介、名刺交換、ロールプレイング、電話対応、言葉使い、職業人の心構え) ・モチベーション講習(朝礼当番、スタッフ会議の司会・進行、外部講師による「人間力アップ研修会」) ・仕事に対する意識改革研修(地域のデザイナー、クリエーターによる講習会) ・ピアサポートによる生活支援相談(在宅就業に向けた環境整備、自己管理の方法を相談) 受講方法 通所による訓練 テキスト 教材 各ソフトについての市販のテキスト 指導者が出す課題(実習) 受講料 実費(教材費・外部講師による特別講習受講費等) 石倉さんの在宅就業の内容 請負業務の内容 ・名刺、チラシ、伝票、報告書、ポスター等の制作 ・WEBサイト制作のための素材制作  (バナー等) 作業時間 週2日 6時間/日 作業場所 自宅 障害への配慮事項 ・疲労しやすいので無理なく作業できる環境の準備(横になれる畳敷きの休憩室) ・適切に休憩を入れながら作業を行えているかどうか(自己管理)の把握 用語解説 「ピアサポート(peer support)」  「ピア」という言葉は「仲間」「対等」という意味があり、共通の経験と関心に基づいた仲間同士の相互のサポートのこと。「ピアサポート」は、同じ障害を持つ人同士だけではなく、同じ性別、同じ世代、同じ文化的背景、同じ職場同士など、様々な形がある。 ▲ふらっとが企画・実施している「しまねTシャツフェスティバル」は、障害者が積極的に街に出て市民を巻き込んで活動するイベントとして注目されている。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 支援内容 「働きたい」という本人の確かな意志を生かす より実践的な技術力と対人能力の向上、在宅就業の ための環境と仕事のリズムづくりを支援 社会福祉法人 ふらっと 支援員 森 則子さん support 支援団体 支援対象者 石倉さんの訓練への支援 DTP関連ソフトの習熟・技術指導と同時に 社会人として必要な心構えを意識づける  石倉さんに対して、ふらっとでは実践的なDTP関連技術の指導に加え、仕事に対する姿勢や心構えを意識づけるためのさまざまな講習・研修を年1〜2回、協力企業や発注元の担当者らを外部講師に招き行った。  特に、発注元ともなる企業で働くデザイナーやクリエーターから直に仕事の実際や現場の様子を聞くことは、日常的に求められる品質や完成度といった要求の厳しさにふれる貴重な機会となった。石倉さんにとっては、「仕事がしたい」という意欲を新たにする機会ともなった。  また、スタッフ会議等での司会・進行を担当することで、意見のとりまとめやその場の取り仕切りといった対人能力の向上とともに、より高いモチベーションの形成につながった。 ▲障害者支援施設ピー・ター・パンの仕事場 石倉さんの在宅就業への支援 機器購入など制作業務に適した就業環境を整備し 在宅就業のリズムづくり  在宅就業に向けて、利用できる公的給付制度の活用を助言し、パソコン環境の整備を支援した。  そして平成16年5月ごろから、名刺・チラシなどの制作業務を週2日在宅で行うこととし、体調と能力に合った仕事量を見極めながら、在宅就業のリズムの確立を図った。  石倉さんは、在宅就業と並行して、週2日はピーターパンへ通所を続け、訓練を兼ねた実践的な作業に臨んだ。その際、作品に対する制作理由を整理したり、作品の良いところを見つけコメントを返したりして、クリエーターとしての自負と自信につながるサポートを行った。 comment ●石倉さんを指導した新田裕之さんの話  石倉さんは、ここで自分の好きな仕事と出合い、みるみる腕を上げていきました。そして「このままでいいのか」と彼なりに考えるようになり、「もっときちんと働きたい」という考えを強めました。  とにかくやる気がハッキリしていて、訓練を終えるころには私に自分の意見をぶつけてくるほどになっていましたね。彼はその後、就職することになりましたが、それも彼自身にチャンスをつかむという強い気持ちがあったからだと思います。彼の気持ちを、私たちが、ちょっと後押ししてあげることができたのだとすれば、うれしいですね。 支援ノウハウQ&A Q モチベーション講習のメリットは? A ふらっとでは、講習等は原則「有料」で行っています。「無料」だとどうしても受け身に傾き、主体者としての意識が曖昧になるのを見ているからです。  外部講師による「人間力アップ研修会」や実社会との交流の機会を積極的に設けることで「仕事をするからには障害者も健常者も求められるものは同じ」と意識改革し、モチベーションの向上につながっています。 Q ピアサポートによる生活支援相談が目指しているものは? A 在宅就業に向けての支援では、就業環境の整備や自己管理の方法などが主でした。しかし現実的には、在宅就業により施設から離れてしまうと、うまくやれているかどうか目が届かない状況も生まれます。今後は、在宅就業に進んだ後も「今どうしているか」をつかんでフォローして ゆくようなサポートが必要であり、生活支援相談が大事だと考えているところです。