非雇用17 Case study ロールプレイングや作業場面のコミュニケーションを通じて、対人スキルを向上 サテライトオフィスを活用して新たな雇用モデルを提案 Profile 支援団体 新宿区障害者就労福祉センター ●所在地:東京都新宿区市谷薬王寺町51 薬王寺児童館1階 (サテライトオフィス推進室) ●・03(3358)9413 FAX03(3355)9414 ●URL:http://www.challengework.jp/ 【事業内容】  新宿区内の障害者団体の要望により「障害者の就労と就労による社会参加の促進」を目的に新宿区が設置主体となって設立した任意団体。福祉、労働、保健、教育などの既存の行政の枠組みを越えた多面的、先駆的な取り組みが必要である、との認識を基に様々な事業を展開している。 「障害者の障害程度や職業適性に応じた多様な就労機会を提供する事業」の一環で、自宅以外の共同オフィスを利用した広義の意味での在宅就業をサポートしている。 支援対象者 Kさん ●在住地:東京都 ●障害種別:精神障害(2級) ●障害状況:高校時代に発症。2週間に1回定期通院をしている。 【これまでの経緯】  高校中退後、働きたい気持ちは持っていたが在宅で生活をしていた。平成17年から作業所に通所を始める。パソコンへの興味があり、同年10月から支援団体が企画した在宅就労を目指す講習会を1年半受講。併せて、支援団体のサテライトオフィスにてホームページ作成業務で在宅就業を行う。平成20年6月から一般の在宅就業のホームページに登録し、請負業務も行っている。 主な訓練内容 期間 平成17年10月〜19年3月(1年6ヶ月) ※期間は個々人の状況に応じて設定している。 訓練内容 ・ワード文章作成基礎(社内文書、図、エクセル表の挿入等)及びエクセルを使った表計算処理(関数の使用)の学習 ・WEB開発基礎講座(JAVAスクリプト) ・社会適応訓練(他者が受注した業務を手伝うことにより他者とのコミュニケーションスキルを学ぶ) 受講方法 ・支援団体に通所して実施 ※当初は週2日から開始し、後半は週4〜5日 ・講習時間は13時00分〜16時00分 テキスト 教材 基本的な内容についてまとめたテキストを活用(1〜2ヶ月で修了)。その後は、個々人の進度に応じて課題を設定。 受講料 現在は、テキスト代実費(1,000円程度) Kさんの在宅就業の内容 請負業務の内容 ・在宅就業のサイトに個人登録し、そこから請け負ったホームページの作成業務 ・支援団体が請け負ったホームページの作成業務 作業時間 ・週4日  ・13時00分〜16時00分  (忙しい時は17時00分頃まで) 作業場所 支援団体 障害への配慮事項 精神的、身体的に疲労を感じたら、本人の申し出により休憩が取れるようにしている。 社会適応訓練のときに活用しているビジネスマナーのテキスト 用語解説 「サテライトオフィス」  勤務者の身近な地域で、ICT(Information and Communication(s) Technology)を活用し、所属企業の従事業務と同等の業務が行えるオフィスのこと。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 支援内容 コミュニケーション力の向上で 問題を自己解決。まとめ役として マネジメント能力も高める 新宿区障害者就労福祉センター 在宅就労・サテライト就労推進事業担当 柴田 桃代さん support 支援団体 支援対象者 Kさんの訓練への支援 一方的な講習ではなく自ら分からないことを調べる力を高める  ワード、エクセル講習は、講師1人に対し、受講生4名で実施した。WEB開発基礎講座では、講師1人に対し、受講生10名で実施した。初期段階では、基礎知識を学ぶテキストを活用するが、その後は個々のレベルや経験に応じて自習形式をとっている。分からない点については、ヘルプ機能やインターネットを活用して疑問点を調べたり、問題点を調べて自ら質問ができることを目指してサポートした。また、これまで他者とコミュニケーションをとる経験が少なかったので、1つの課題を他のメンバーと協同して取組むことで、メンバーに依頼や説明をする機会が増え、コミュニケーションの練習になった。 相手とコミュニケーションをとる力を重視し、 社会性を高めるサポート  社会適応訓練では、2〜3ヶ月に1回の頻度で、基本的なビジネスマナー講習(上座、下座の理解、名刺の渡し方など)をロールプレイを交ぜながら支援した。また、実際のコミュニケーション場面で、良い声かけの仕方について、その都度フィードバックを行った結果、自分の意見を相手に伝えることができるようになってきた。それ以外にも、他者の発言をマイナスに捉えてしまったときに相手の発言の意図を振り返るような、相談、声かけを行った結果、一人で抱えず、他者に相談をしながら、自己解決ができるようになった。 初期段階では他者の視線を気にせずに済むよう、壁面で訓練を行う。慣れるに従い、メンバーと対面式で行う。 Kさんの在宅就業への支援 請負業務の発注先とのコミュニケーション、 マネジメント能力の向上を継続的にサポート  平成20年6月から一般の在宅就業の業務をあっせんするサイトにKさん自身が登録し、ホームページ作成の請負を開始した。基本的には支援団体に通所して請負業務に取組んでもらった。発注先との打合せは、メールで交渉することができている。また、直接会う場合は、スタッフと対応方法を相談し、支援団体の場所を活用して打合せを行ってもらった。最近では、Kさん自身がやり取りに慣れ、スタッフに助言を求める回数も減ってきた。  また、支援団体が受注しているホームページ作成業務については、Kさんがまとめ役となり、他のメンバーに対して業務の割り振りをしたり、技術を教えたり、質問に答えている。体調の変化が生じやすい疾病を抱えながらも、将来的に、個人事業主として活躍できるよう、マネジメント能力を高める経験を積んでもらっている。  安定して働いていくために、疲労が溜まらないよう休憩をとるよう声かけをしたり、体調が悪くなった原因を相談し、振り返りができるように配慮している。 comment  コンピューターが好きだったので、ホームページやグラフィックの作成について学ぶことができたのが嬉しかったです。  在宅就業を始めて、仕事の依頼主の方と打合せをした時は緊張しましたが、これまでやったことのない経験ができたことは良かったと思います。  自分が興味のある仕事を見つけて取組めると、大変な時でも頑張って乗り越えられるのではないかと思います。(Kさん) 支援ノウハウQ&A Q サテライトオフィスを活用した在宅勤務を行うモデル事業を検討中とのことですが、どのような内容ですか? A ハローワーク新宿、新宿区にも助言を得ながら検討しています。サテライトオフィスを企業何社かで共同で借り上げ、障害者を雇用しそこで勤務してもらいます。その場に当団体が福祉的サポートとしてジョブコーチを派遣します。また、企業からは指導者がサテライトオフィスに勤務し、障害者に対して業務指導を行うというモデルです。企業の指導者には、業務に詳しい高齢者に担っていただくことを考えています。もちろん、サテライトオフィスを経て、会社で勤務することも想定しています。  精神障害者の場合、病状や体調の変化に応じて業務量の調整が必要となります。自宅で一人で業務を行うには企業や本人双方に不安が残ります。技術指導と福祉的サポートが受けやすい環境を整備することで、精神障害者の雇用が広まるのではないかと考えています。