雇 用10 Case study ICTの基本から応用まで充実した講習会と、 障害者の特性に応じた雇用体制を図る Profile 支援団体 特定非営利活動法人ジェイシィアイ(JCI) テレワーカーズ・ネットワーク ●所在地:徳島県鳴門市大麻町池谷字丸池29-3 ●・088(683)5101 _FAX088(683)5101 ●URL:http://www.jci-tn.jp/ 【事業内容】  障害者等の社会的・経済的自立の実現を目指し、平成11年4月に設立。平成14年1月に特定非営利活動法人に認定、平成18年8月に在宅就業支援団体に登録。時間と場所の制約から解放された新しいワーキングスタイルとライフスタイルの創出、実現のために、障害者に対するICT講習会の運営、在宅学習支援、ICT利活用による在宅就業の創出など多角的に事業を推進している。 支援対象者 鈴木 雅彦さん ●在住地:徳島県 ●障害種別:身体障害(1級) ●障害状況:両下肢機能障害、両上肢機能障害により、車椅子生活を送る。着替え、入浴、家事のほとんどにヘルパーの介助を受けながら一人暮らしをしている。手動装置を搭載することで自動車の運転が可能。 【これまでの経緯】  国立阿南工業高等専門学校機械工学科を卒業後、求職活動中に支援団体の活動をメディアで知る。病気の進行による身体機能の低下を懸念していたため、在宅勤務を目指したいと考え、平成14年4月に入会。平成16年4月、支援団体の事務局職員となり、在宅勤務以外に事務局等での勤務もしている。 雇用先 特定非営利活動法人ジェイシィアイ(JCI) テレワーカーズ・ネットワーク ●プロフィールは「支援団体」に同じ。 ■会員数:260名      (内、就業している者120名) ■障害者の在宅就業者数:30名 雇用のきっかけ  支援団体の会員となる前からICTに関する知識と技術の基本は身に付いており、更なる職業的専門性と、ビジネスマナーを体得すれば、将来的に幹部として活躍できる人材と判断。支援団体の運用に携わる事務局職員として雇用される。 鈴木さんの雇用状況 従事業務 支援団体会員の情報管理・作業報酬等の計算業務、団体ホームページの管理・更新、ICT講習会のコーディネーター・講師、印刷物の製版、データ入力、ホームページの設計等。在宅勤務者がひとつの仕事をチームで行う際のリーダーも担う。 雇用形態 在宅勤務と、仕事内容にあわせて支援団体の活動拠点2カ所(事務局、JCI鳴門UPセンター)に通勤している。 常勤職員。週5日勤務(月〜金) 勤務時間 10時00分〜17時00分(6時間勤務) 業務の進捗管理 在宅勤務の際は、作業の進捗を日報に記入し、成果物のデジタルファイルとともにメールで事務局に提出。緊急を要する報告は随時電話で行う。 賃金 月給制 設置機器 パソコン、プリンタ、インターネット環境 活用した制度 なし 配慮した事項 多様な業務が遂行できるよう、在宅勤務、事務局・JCI鳴門UPセンターへの通勤等、作業場所を選べるようにした。事務局、JCI鳴門UPセンターについてはバリアフリー化を行った。 ▲鈴木さんが管理・更新しているJCIのホームページ。さまざまなホームページを見て日々デザインの勉強をしている ▲週の始めには鈴木さんやJCI猪子理事長ら事務局職員が集まり、仕事の状況や一週間の予定などを確認し合う 用語解説 「ICT」   情報通信技術(Information & Communications Technology)の略。日本ではインターネットや携帯電話等の情報通信技術をあらわす言葉として「IT(Information Technology)」が広く普及しているが、国際的には、「ICT」の方が広く定着している。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 支援内容 時間と場所に制約されない、 自立した職業人として働ける ライフスタイルをつくる 特定非営利活動法人 ジェイシィアイ・テレワーカーズ・ ネットワーク 理事長 猪子 和幸さん support 支援団体 支援対象者 鈴木さんへの支援 雇用前 最新パソコンの支給と、 ICTの応用力を身に付ける  在宅勤務に関心を持っていたこともあってパソコンを所有しており、インターネット環境も整っていた。在宅勤務が円滑にできるよう、最新型のデスクトップPCとプリンタを貸与し、環境整備を施した。  支援団体のスタッフが制作したテキストを使用し、ソフトウェア・ハードウェア・ネットワーク等を学習するICT講習会を分野別・段階的に実施。ICTに関する基礎は高等学校で学んでいたので、在宅勤務に向けた専門的知識・技術のスキルアップを目指した。実際に支援団体が一般企業から受注している印刷物やホームページなどの制作にあたり、技術の修得を図った。  ICT利活用技術の指導ができる「人材」の育成を目指したICT指導者養成講習会を行い、他の障害者への指導力も養った。  言葉遣い、メールの書き方、名刺の受け渡し方など、ビジネスマナーも指導。技術面だけでなく、社会人として求められる面もフォローした。 雇用後 事務局職員としての専門的学習と チームリーダー力の育成  支援団体事務局職員に求められる事務処理技術(在宅業務のプロジェクト管理:会員情報管理、作業報酬などの計算事務、会計事務)の個人指導を行った。専門性を深めるための目標を掲げ、学習の成果を評価するとともに成果を活かした。  在宅勤務の際は、支援団体会員専用Webサイトで自分のスキルに見合った仕事を探し、エントリーしたメンバーでチーム体制を敷いて作業する。鈴木さんは主にチームリーダーとしてメンバーの進捗把握、プロジェクトの管理を行っている。仲間をまとめる役割を担い、技術面だけでなく内面的な成長にも繋がった。  ICT利用技術の指導力を養う講習会を実施し、他のメンバーへの指導が優れたものになった。最近はテキストだけではわかりにくい部分をインターネットの動画を使い指導するなど、新たな取り組みにチャレンジしている。 雇用先 特定非営利活動法人ジェイシィアイ・テレワーカーズ・ネットワーク 雇用にあたって 活動拠点の全面的なバリアフリー化  在宅勤務の際、一人であってもICT作業をこなせるように、知識・技術の向上に注力した。わからないことがあった時は何でも質問させ、仕事以外のメンタル面でもサポートした。  事務局職員として事務所へ出勤することが多いため、玄関口へのスロープ設置、事務所内を車椅子での移動可能なスペースの確保と段差解消等、バリアフリー工事を行った。作業スペースは、玄関口から一番近い部屋に設置した。  もうひとつの活動拠点である、JCI鳴門UPセンターのバリアフリー化も実施。バリアフリー工事には、鈴木さんをはじめ、支援団体の障害者たちが立ち会い、活発な意見交換をし、誰もが使いやすい場所を実現した。  在宅勤務と事務所等での勤務を組み合わせて効率的に業務遂行できる環境が整い、体調管理も行えたことで仕事への自信がついたようだ。在宅においても品質の高い仕事をこなせるまで、スキルアップが図れている。 comment  在宅勤務で「仕事」への可能性を拡大・深化したいという私の思いを理解し、支援していただいたことに感謝しています。さらに支援団体の事務局職員として雇用していただき、一緒に働く仲間たちの取りまとめ役を担うことで、広い視野を持てるようになりました。クライアントの方と直接やりとりをする機会が多く、そこから学ぶことも多々あります。今後さらに自分を磨いていきたいと思います。 ▲鈴木 雅彦さん 支援ノウハウQ&A Q 在宅勤務と事務所へ通勤することを使い分けた理由は? またそのメリットは何ですか? A JCIの活動は多様化しており、それぞれの仕事に合わせて、その日の作業場所を選択できるようにしています。  例えば、週始めのスタッフミーティングや機密性の高い事務処理は「事務局」、独自運営のICT講習会や数名のチームで行うデータ入力業務は「JCI鳴門UPセンター」、ホームページの更新などは「自宅」と、それぞれの場所で実力を発揮できるよう環境整備を施しています。移動が困難な障害者については在宅勤務とするなど、一人ひとりが自分の特性に見合った場所で勤務し、効率化を図ることができています。 ・JCI鳴門UPセンターでの就業の様子。移動可能な障害者が集まって仕事を行う